
1959年、イギリスはシーダーベールというおそらく架空の名前をもつ小さな地区の警察署に、交通事故の通報が入ります。電話を受けていた巡査が受話器を置くと、ちょうどそこへ男がやってきました。彼こそが『フレミング邸の殺人事件(以下、『フレミング邸』)』の主人公であり、プレイヤーは彼を操作し、検視官としてさっそく交通事故の調査にあたることとなるのです。
シーンを探索してキーワードを集めて死因や犯人を特定するメカニクスや、「いったいなにがあったんだ?」と戸惑いと好奇心を覚えざるを得ない事件現場のビジュアル、次々と起こる事件に共通する人々や物々、調べるべき箇所のハイライト、そしてシナリオを区切るチャプター形式の採用といった特徴1から、『フレミング邸』は間違いなく『The Case of the Golden Idol(以下、『Golden Idol』)』の血を分けた子どもだといえます。
とうぜん異なる部分もあります。たとえばヒント機能。『Golden Idol』では「1つか2つ誤りがある」とファジーなヒントをくれるだけでしたが、『フレミング邸』では誤りが3個以下であればそのものズバリの数字を教えてくれます。
そのうえ3回以上まちがえたら、「いま見ているページに誤りがあるか」「あるのなら、それはどの部分なのか」まで教えてくれるようになる。さらにさらに、特定の問題に関しては「あそこを調べるといいよ~」的に段階的なヒントがもらえる……どころか、答えすらも教えてくれます。製品ページには、
ゲームがあなたの推理が正しいかどうかを教えてくれることはありません。2
と、ありますが……たぶんこれは制作初期の仕様でしょうね。製品版では、問題が難しすぎて諦める可能性はだいぶ低いと思います。


ではだれでも挫折しないでクリアできるかというと……そうでもない。というのも、こういった調査と推理が主体のゲームはただでさえ地味なのですが、本作にはさらに法医学要素があるからです。
馴染みのない単語を追って法医学書のページを行ったり来たり、血液検査の結果をサンプルデータと照らし合わせ、筆跡を鑑定するために英語の筆記体に目を凝らして、より詳しい薬物検査をしてもらうためにロンドンへ依頼書を作成して……と、本作は簡易なお仕事シミュレーター的側面も有しています。
わたしはクリアまでに10時間ほどを要しましたが、地味にかゆいところに手が届かないUIもあいまってなかなか根気のいるゲームプレイとなりました。死体が多いときのワクワクと面倒くささが……拮抗している! 遊びとタスクの閾ってあいまいなんだよな。
しかし『フレミング邸』をもっとも特徴づけているのは、本作が基本的に主人公の一人称視点で進行するという点でしょう(こういう書き方をするということは、つまり主人公以外の視点をとるパートもあるのですが)。
『Golden Idol』は三人称視点に徹しているがゆえに、印象的なシーンを取り出してプレイヤーに提示しても違和感がありませんでした。しかし本作は視点人物が固定されているため、いくつかのシーンはイメージ映像として受け取るほかなくなっています。情報を集める前にもかかわらず、事件発生時の現場がプレイヤーに見えてしまっている。
「現場を検証をして真相にたどりつく」というコンセプトに反してしまっているんですよね。この点は正直いってもったいない。通報によって駆けつけた警察官が死体を発見した時間まで現場の手がかりから推理しなくてはならない(!)このゲームとしては、やっぱりちょっと違和感が強いです。ただ、おそらく制作者も悩んだ末の実装ではないかな~という気はします。
シナリオの核心部分については、ゲーム中でも「体験を損ねるから未プレイ者にはネタバレをしないでほしい」旨が述べられているので詳しくは触れられませんが、1つだけいうのであれば、物語としてはきちんとオチがつきます。「あとはご想像におまかせします」展開では終わりません。そこは安心してもいいです。
総評にかかりましょう。
ストーリーを、ひいてはゲーム体験を支えるアイディアは良いと思います。あのアイディアによって『フレミング邸』がもつ短所のすべて……とはいいませんが、その多くをカバーできている。しかし、それでもなお不満はあります。コンセプトを突きつめて、もう少し全体の構成が練れていればもっと良い作品になった。そう思わせるだけのポテンシャルが感じられる。このあたり、たんなるプレイヤーでしかないわたしとしても歯がゆいものがあります。
しかし、作品を評価するにあたってGoodかBadの2択であれば、わたしは前者を選びます。こうしたメカニクスのゲームを、リリース時から高品質な日本語訳で楽しめるのはとてもありがたいことです。『フレミング邸』はクラシックなミステリへのリスペクトとともに、小説でも映画でもない、ゲームだからこそ味わえる体験をプレイヤーに提供してくれるでしょう。
『Golden Idol』の諸特徴については以下の記事を参考にした。千葉集, 「正解に三つの鐘が鳴る――プレイヤーを名探偵にするメカニクスについて」, 遊星歯車機関, https://note.com/planetary_gear/n/nd75f0dd32f06 , 2026-11-07閲覧 ↩︎
SUPERTHUMb, 「フレミング邸の殺人事件」, Steam, https://store.steampowered.com/app/3758950/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E9%82%B8%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6/ , 2026-11-07閲覧 ↩︎

