
あらすじ
1972年、人類は宇宙探索によって未知の金属物質を発見する。銅の同位体であり、超電導の性質をもつそれを人類は「軽銅」と名付け、通信各種のインフラをはじめとした科学技術の発展に利用しはじめる。さらには軽銅を人間の神経系に埋めこむことで神経信号の伝達速度を飛躍的に向上させ、高速チャネル技術を確立させることをも成功。軽銅は人類にとってなくてはならない物質になった。
しかし、その軽銅がなぜが地球上から次々と、しかも大規模で消失する未曾有の現象が発生。そのうえ原因不明の伝染病が発生したり、異常な磁気嵐が起きたりしたせいで人類文明は壊滅的な打撃を受け、人類じたいもそのほとんどが死に絶えてしまう。
残された人々のうちの一部は高速チャネル技術を応用し、意識を転移させることに人類存続の望みを賭けていた。
そして2133年、とある天体が、これまたとある無人島に落下する。意識転移を目指すファランステールという組織の研究員であるベンたちは、当該天体の調査のために島を訪れるのだが……。
レビュー
公式は「ポイント&クリックホラー」と銘打っているが、あらすじをみてわかるとおり本作はけっこうなSFだ。SFなのだが、プレイヤーはつねに不穏さと混乱に苛まれることとなる。
最終的にはそれなりに理解できるストーリーに落ち着くものの、この作品の評価は制作者が仕掛けた混乱をいか楽しめるかどうかにかかっているだろう。ジャンプスケアも動物の死もあるのだけれど、それ以上に「寄って立つリアリティラインが見定めがたい」という点で、本作はSFでありながらちゃんとホラーである。
そもそも軽銅によって別の歴史をたどった人類史を想像するのが難しい。あらすじに書いたようなもろもろも、順を追って説明されるわけではない。1周かつ自力でストーリーを理解したいならメモはとったほうがいい。わたしは2周半+EDの回収で、プレイ時間はだいたい6時間ほどかけた。
ちなみにストアサンプルで若干匂わせているようなサバイバル要素は本作には存在しない。あるのはポイント&クリックとちょっとしたパズルだ。残りは不穏さ、不気味さ、混乱だ。あ、QTEもちょっとある。音楽とビジュアルは抜群にわたしの好みだ。
で、だ。最初に操作することになるベンを例にとって話を始めよう。こいつのパートがいきなり問題だ。いきなりなにかわからん薬剤を自分で自分に注射しているところから物語は始まる。目の前のノートには「裏切り者を見つけ出せ」の文字。
そのうえ調査行できたはずの島には「お母さん」がいる。お母さんは姿こそみえないものの、ベンの食事について心配してくれる。やさしい。
バターナイフにおびえたり、『作物育種学総論』や『マタイによる福音書』といった意味深な書物をチラ見したのち外に出てみると、浜辺にはデカい一つ目の異形が佇んでいる。

一つ目はベンの上司でエヴァンという名前らしい。ベンはエヴァンの姿になんのリアクションもとらない。「このロリコンどもめ!」などと書きこんでひと笑いいただこうともしない。たいへんに賢明だ。
エヴァンだけではない。他の研究員も異形にしかみえない。人間だけではない。蜘蛛までバカでかい。まともな姿なのは犬だけだ。なんか犬というよりぬいぐるみみたいだが。
そのエヴァンと話しているうちに、無人島までのってきた船のエンジンが人為的に破壊されたらしいことを知る。たんなる仲間割れどころか遭難している。ろくなことがない。
エヴァンに命じられて放射線測定器を直すため、胡乱で気味の悪いパズルを解いたり、急によくわからない怪物に襲われてゲームオーバーになったり、研究員みんなで焚き火を囲んで食事をしているうちにゲーム初日の日は暮れていく。あれ、お母さんはなにか食べなくていいわけ?
エヴァンの認知能力には、あきらかになにか問題がありそうではある。しかしそれが薬物のせいなのか、彼じしんの性質によるものなのか、この物語がSFだからなのか、それともあの怪異がなにか干渉しているのか、制作者がたんなるシュールリアリスティックな演出スタイルを採用しただけなのかはっきりしない。少なくともすぐには。
それがわからないままプレーヤーはベンを操作し、翌日も島をうろうろと探索してまわり、納得感があるんだかないんだかわからないパズルをまたしても解いていく。

「どうしてパズルを解かなくちゃいけないんだ?」「なんでこんなものをここに隠した?」
わからない。とにかく解かなくては先へ進めない(いちおう補足しておくと、あとから意味のわかるものもちゃんとある)。
こうしたパズルはポイント&クリックゲームではおなじみだ。と同時に、(ものすごく今さらだけど)ここにはちょっとした発見がある。それは、こういう意図の読みとりづらいパズルってとても不気味だ、ということ。
ホラー要素のある作品において、「どうしてこんなものを解かなくてはいけないのか」「なぜこれで正解なのか」、そういった疑問への答えが(少なくともその時点では)不明瞭なパズルがあること。それじたい、奇妙でおそろしい。作品によってはパズルを解くことは=儀式そのものだったりするのだろう。
しかし、そのせいで物語はさらに胡乱さを増してしまうのも事実だ。SFにありがちな情報量の多さや、何度か視点人物が変わることなどもあいまって、ストーリーの理解を目的にしてプレイしてしまうとストレスを覚えるかもしれない。制作者が用意した不穏で奇妙な雰囲気に酔うつもりで楽しむのがいいと思う。


